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日本顎関節症リハビリ研究室 /より安定した快適咬合を求めて

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歯牙喪失と痴呆 歯が抜けると痴呆が早まる

歯牙喪失と痴呆 歯が抜けると痴呆が早まる?



 歯牙喪失がアルツハイマー病のきっかけになる、という研究があります。歯と痴呆などと言うとまるで関係ないように思われるかもしれませんが、歯科疾患は全身と関係しています。

「ラットのコリン作動性ニューロンに及ぼす歯牙喪失とそれに伴う咀嚼変化の影響」abstract

25週齢ラットを固形食給餌対照群,粉末食給餌群及び粉末食給餌+臼歯冠除去群の3群に分けた.処置後15週と35週において,臼歯冠除去群では対角帯核/内側中隔核(NDB/MS)におけるコリン-アセチルトランスフェラーゼ(ChAT)陽性ニューロン数が有意に少なくなっていた.生化学的分析では,対照群と臼歯冠除去群との間には海馬のコリン濃度に統計学的有意差を認めなかった.しかし,臼歯除去群では海馬内のアセチルコリン濃度が対照群に比較して有意に低下していた

TerasawaH.(北海道医療大学 歯 1歯補綴), HiraiT., NinomiyaT., IkedaY., IshijimaT., YajimaT., HamaueN., NagaseY., KangY., MinamiM. Neuroscience Research(0168-0102)43巻4号 Page373-379(2002.08)
 ややいこしいですが、奥歯を抜いたラットでは海馬のアセチルコリン濃度が下がった、ということです。アセチルコリンというのは神経伝達物質の一つで、アルツハイマー病患者では、この濃度が低下し、記憶の状態が悪くなっていることが確認されています。
 世界中でアルツハイマー病に対し最も一般的に処方されているアリセプト(一般名ドネペジル)は、このアセチルコリンを分解する酵素を阻害する働きにより、初期から中期の症状をやわらげようとするものです。ただしアセチルコリンの減少はアルツハイマー病の「原因」とは言えないため、対症療法的効果しか持ちません(ちなみに、アセチルコリン分解酵素阻害という意味では、サリンも似た働きをするもので、「ボケ防止に」と思ってこの薬を大量服用するのは危険ですので、念のため)。
 要するに、奥歯を抜いてしまったラットはアルツハイマー病と似た状態に陥る、ということが確認されたわけです。他にも、歯牙欠損と痴呆や寝たきりの関係について疫学的な統計調査も行われており、「残存歯の平均がアルツハイマー型痴呆群で有意に少なく、また、残存歯が増えるにつれてアルツハイマー型痴呆の発症リスクは有意に減少した」という報告があります。

痴呆度の分類 残存歯数 義歯使用度 最大咬合力
正常者グループ 26名 8.81歯 100.0% 8.0kg
準正常者グループ 27名 8.70歯 88.9% 6.9kg
痴呆症予備グループ 17名 3.59歯 64.7% 4.0kg
痴呆症グループ 17名 3.59歯 17.6% 不 明
九州大学歯学部研究グループ 1994
 痴呆や寝たきりのために義歯を使わなくなるのか、それとも義歯を使わないから痴呆が進むのかは簡単には言えませんが、適切な義歯を作ることで痴呆や寝たきりが改善された、という報告もあります。

「咬合の全身への影響」より

症例(痴呆):82歳、女性.夜間俳個を主症状とする痴呆のため入院。上下顎無歯顎で,上顎には維持の悪い総義歯が装着され、下顎義歯は所持していなかった。上顎義歯を裏装した後、下顎義歯を新製、装着した結果、約1カ月半で退院可能となった。
 ここには他に、7ヶ月寝たきりだった患者さんが適切な義歯を装着して1週間で歩行できるようになったケースなども紹介されています。しかも入院・リハビリで推計110万円の医療費が費やされたのに対し、総義歯製作の歯科医療費はわずか8万円です。当事者の立場からも、高齢者医療費抑制の観点からも、適切な義歯が非常に重要であることが指摘されています。

 話を戻しますと、歯牙欠損放置が痴呆に結びつく機序についてははっきりとはわかっていません。ただ、「食べる」という行為は単に栄養を摂取するということだけでなく、味覚・臭覚といった刺激を受けることでもあります。さらに「噛みごたえ」という重要な要素があります。
 「噛みごたえ」情報は咬筋筋紡錘や歯根膜に存在する感覚器から三叉神経を通じて視床下部へと伝わり、その結果ヒスタミンという物質が分泌されます。ヒスタミンは満腹中枢を刺激するため「よく噛むことはダイエットになる」とも言われるのですが、アルツハイマー病患者ではヒスタミンおよびヒスタミン合成酵素の活性が低くなっていることがわかっているのです。ヒスタミンはバゾプレシンやTRHなど学習・記憶に関連する神経ペプチドの分泌も調節していて、記憶学習等の高次機能に関与しています(アリセプトにはヒスタミン分解酵素を阻害する働きもあります)。
 他に、MRIを使って咀嚼時の脳の状態を調べたところ、アルツハイマー病患者で活性が低くなる大脳皮質前頭連合野に賦活が見られた、という報告などがあります。

 まぁ例によって「歯を大切にね!」と言うより他にないのですが、欠損してしまった場合でも放置せずインプラントなり良い義歯なりといった対処を早い段階で打つべきでしょう。

http://ish.parfe.jp/mt/archives/000178.html



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